・荷物を持ち上げようとして腰を痛めた!
・朝、起きたら首が痛くて動かせない!
・強い負荷をかけて筋肉や関節を痛めた!
こんなときは、とにかく痛めた患部を冷やして(アイシング)ください。
この記事では、ケガを早く治すために必要なアイシングの方法を紹介します。
※ここでいうケガとは、捻挫や肉離れ、打撲といった、外出血を伴わない(皮膚に傷がない)急性外傷のことを指します。
治療家歴20年。整形外科勤務を経て、鍼灸整骨院を開業した私が解説します。
痛みに即効【アイシング】の方法
① 氷を氷のうかビニール袋に入れる。
氷の数の目安(普通サイズの氷)
首や腕、足首等の狭い範囲・・・20~30個
腰や背中、太もも等の広い範囲・・・40個以上
氷がなければアイスノンや保冷剤でも良いですが、凍傷に注意が必要です。
② 氷が少し浸かるくらい水を入れる。
水を入れる理由
・氷は、霜のついた状態だと凍傷になってしまう危険があるため。
・氷が解けるときに熱をうばうので、水で溶かし始めてから使う。
・水が入っていることで、患部に密着するため。(氷だけだとゴロゴロしていて密着しない)
水を入れ過ぎると氷がすぐに解けてしまい、アイシングの効果が得られないので、水は少なめにしましょう。
③ 氷のう(ビニール袋)の中の空気を抜いて閉める。
空気を抜いておくことで、さらに患部に密着しやすくなります。
④ 患部に直接当てて感覚がなくなるまで冷やす。
目安は20分です。
アイシングを始めると、患部の感覚が以下のようになります。
「冷たい」→「痛い」→「感覚なし」
これ以上アイシングを続けると、凍傷になってしまうので気をつけてください。
また、アイスノンや保冷剤の場合は、凍傷の危険があるため、ハンカチや手ぬぐい等の薄い布地を挟んでください。ティッシュやキッチンペーパーでもOKです。
アイシング中に寝てしまうと…アウトです!
⑤ 感覚がなくなったらアイシングを外して、感覚が元に戻るまで待つ。
目安は40分です。
凍傷予防のためにも、一旦アイシングを外します。
60分~90分空けても大丈夫です。
⑥ ④と⑤を繰り返す
④【20分冷やす】と⑤【40分外す】
これを1セットとして、2~3セット連続で繰り返します。
また、1日の中で、痛みが強く感じるときや患部に負担をかけてしまったときにも、その都度2~3セット行いましょう。
アイシングをする期間
痛めてから2~3日は、アイシングを続けた方が良い場合が多いですが、ケガの程度によってアイシングを続ける期間は前後します。
その後は積極的に温めることで、早く治ります。
しかし、温め始めるタイミングを見極めるのは難しいかも知れません。
患部の腫れや熱感がなくなったのが確認できてから温めると良いのですが、できれば整骨院等の治療院で診てもらった方が良いでしょう。
アイシングの効果
痛みを和らげる
患部を冷やすことで、神経の伝達速度が遅くなるため、痛みが緩和されます。
内出血を抑える
ケガをすると、同時に血管も損傷して内出血が起こります。
患部を冷やすと血管が収縮するので、出血量を抑えることができます。
腫れを抑える
組織を損傷すると、血液以外の液体(浸出液)や炎症細胞等が出てくるために腫れが起こります。
患部を冷やすことで、血流が抑えられるので腫れが抑えられます。
ケガの拡大を防ぐ
ケガをすると、損傷した組織の周りの、健康な組織への酸素供給が低下してしまい、二次的な組織損傷を生んでしまいます。
周りの健康な組織も同時に冷やすことで、健康な組織が必要とする酸素量を少なくし、二次的な損傷を防ぎます。
【危険】アイシングをしてはダメなケース
アイシングをすることで状態を悪くしてしまうケースもあります。
以下のケースの場合は、決して自己判断でアイシングを行わず、必ず医師の指示のもとで行いましょう。
寒冷じんましん(寒冷過敏症、寒冷アレルギー)
冷たいものに触れると、かゆくなったり皮膚が真っ赤に腫れ、発疹を生じたりするアレルギーです。
アナフィラキシーショックを引き起こしてしまうこともあります。
感覚障害
糖尿病やアルコール性末梢神経炎等、皮膚の知覚が鈍っていると、凍傷を起こしてしまうこともあります。
レイノー症候群
寒さに反応して、細い動脈が収縮し、手足の指が真っ白あるいは紫(チアノーゼ)になったり、しびれやチクチクした感覚が出ます。
アイシングの冷刺激が、症状の悪化につながってしまうこともあります。
循環器系の病気
血栓ができやすい疾患を持っている場合は、血管の収縮を引き起こすアイシングをすることは危険です。
また、元々、局所的に循環障害のある部位を冷やすと、さらに循環を悪化させてしまうこともあります。
※その他、注意が必要なケース
胸部(心臓の近く)へのアイシングは、3~5分と短めにする。
高齢者は皮膚感覚が鈍っている可能性があるため、凍傷に気を付ける。
【重要】アイシング以外での注意点
お風呂
患部はもちろん全身を温めると、血行が良くなります。
その結果、患部の炎症が強まってしまい、痛みや腫れがひどくなってしまうことがあります。
基本的には、ケガをして2~3日は、アイシングを重視する期間なので、湯船には入らない方が良いです。
シャワーで軽く汗を流す程度にし、その後にアイシングすることをおススメします。
患部の炎症がなくなり、アイシング期間が終わったら湯船でしっかり温めた方が治りが早くなります。
しかし、もしお風呂上がりに、また痛みや腫れが出るようなことがあれば、しばらくはアイシング期間を続ける必要があります。
お風呂好きの方にはつらいことですが、辛抱してくださいね。
アルコール
お酒を飲むと、一時的に末端の血管が拡張してしまい、患部の炎症が強まってしまいます。
酔っぱらっている間は痛みに気づかず、醒めた時に、痛みや腫れがひどくなっていることに気づきます。
また、利尿作用と、発汗によって、体から水分がなくなっていきます。
さらに、アルコールを体内で分解する時にも大量の水が消費されます。
その結果、体は脱水状態になってしまいます。
損傷した組織を修復するために、患部では常に代謝が行われています。
その代謝を効率的にするためにも、体の中のバランスは良い状態に整えておきたいものです。
炎症を強めないためにも、脱水を防ぐためにも、アルコールは控えてください。
因みに、痛みや腫れがなくなったとしても、組織の修復には2~3週間かそれ以上かかります。
その間は、飲酒はしない方が良いでしょう。
お酒好きの方にはつらいことですが、辛抱してくださいね。
運動
患部が痛むような運動は、基本的に控えてください。
患部が痛まないような運動であっても、全身の血流が良くなって炎症を強めてしまう危険があるため、アイシング期間中は控えた方が良いです。
ただし、完全に安静にする必要はないので、日常生活の動作は、痛みの出ない範囲で行って大丈夫です。
運動再開のめどは、医師やPT、柔道整復師等の専門家と相談して決めることをおススメします。
一番注意して欲しいことは、
痛みがなくなってもケガが治ったわけではない
ということです。
組織の完全な修復が終わるよりもかなり早い段階で、患部の痛みを感じなくなります。
これを知らずに、自己判断で運動を再開して、再受傷するケースは非常に多いです。
患部以外を使ってできる運動から始めて、治ってきたら徐々に患部を使う運動を増やしていく、といった段階的な復帰をすることがポイントです。
運動が好きな方にはつらいことですが、辛抱してくださいね。
湿布や痛み止めの薬
整形外科に行くと、湿布や痛み止めを処方されることが多いと思います。
あるいは、すでに自宅に持っているかも知れませんし、薬局に行けばすぐに手に入ります。
日常生活が送れないほどの痛みがあれば、それらを使うこともOKだと思います。
しかし、湿布や痛み止めには、副作用があることも忘れて欲しくありません。
最近では、ロキソニンやボルタレンといった、かなり強いものも、簡単に手に入ってしまいます。
また、薬品によって痛みを感じなくすると、本来ならば痛むような動きができてしまいます。
その結果、知らないうちに患部をさらに悪化させていた、というケースもかなり多いです。
痛みは正常なシグナルでもあります。
無理をすれば、治るまでの期間が遅くなったり、治らなくなることもあります。
湿布や痛み止めの薬とどう付き合うかは、よく考えて欲しいところです。
水分やミネラルのバランス
アルコールの項でも説明しましたが、組織の効率的な修復のためには、体の中のバランスを整えておくことが必要です。
コーヒーや紅茶、炭酸飲料等には、カフェインが多く含まれているものがあります。
カフェインには鎮痛作用もあるのですが、利尿作用もあります。
また、水分の吸収が悪くなったり、下痢をすることもあります。
これらのことから、カフェインの摂取も控えた方が良いでしょう。
ケガを早く治すためにも、水分をしっかりとり、バランスの良い食事で、ビタミンやミネラルの摂取も心がけてくださいね。
【新説】アイシングの最新研究
マウスを使った実験で、肉離れに対するアイシングの効果を検証したものがあります。
結果としては、アイシングをしたマウスよりも、しなかったマウスの筋肉の再生の方が早かったことが分かりました。
これは、マウスの重篤な肉離れに対したもので、一般的なヒトの軽微な肉離れに対しても適応される結果なのかはまだ分かっていません。
私の考えとしては、実際の臨床的な経験から言っても、アイシングは基本的に必要だと思っています。
もし、ヒトの体でもアイシングすることで筋肉の再生が遅れたとしても、適切なリハビリで早期に復帰できますし、アイシングをしないことのデメリットの方が多いと感じます。
例えば、炎症による腫れをアイシングせずに放っておくと、ケガをした周りの組織とくっついてしまい(癒着)、ケガが治ったとしても筋肉や関節が、半永久的にかたまってしまうこともあるのです。
ケガをして炎症が起こるのは、ケガをした部位を治すために必要なことですので、炎症を全て抑え込むのではなく、必要最低限に加減することが重要なのだと思います。